【完全解説】NHLのエントリーレベル契約(Entry Level Contract: ELC)とは? 仕組み・年俸・スライド制度まで

       

NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)には、選手とチームとの間で結ばれる契約形態がいくつか存在します。

中でも、NHLやAHLでプレーする若手ルーキーに義務づけられている契約が、エントリーレベル契約(Entry Level Contract:ELC)です。

この記事では、そのELCとは何か?どの選手に適用されるのか?契約年数や年俸のルール、スライド制度などの仕組みについて、初心者にもわかりやすく徹底解説していきます。

エントリーレベル契約(Entry Level Contract)とは

NHLチームでプロキャリアをスタートさせる25歳以下のルーキー選手が、最初に必ず結ぶ契約がエントリーレベル契約(Entry Level Contract、略してELCです。

ドラフトの有無に関わらず、全ての選手にELCを結ぶ権利がある

ELCは決してドラフト指名された選手だけが結べる契約ではありません。

ドラフトされなかった選手でも、ジュニアリーグやアメリカ大学リーグNCAA、ヨーロッパのプロリーグなどで著しい結果を残し、NHLチームにスカウトされてELC契約を結ぶ、ということはよくあります。

NHLチームは、ドラフトで指名した選手の独占交渉権を規定の年数(その選手の在籍するリーグによる)保持することができます。

それ以外のドラフトされていない選手は、各NHLチームが自由にスカウティングすることができるのです。

カナダジュニアリーグ(CHL)でプレーする磯谷建汰選手も、今シーズン(2024-25シーズン)でジュニアリーグでのキャリアを終えた後に、NHLチームとELCを結ぶ可能性は十分あります。

将来、NHLでプレーすることが期待される選手のみがELCを結ぶ

画像引用:PensBurgh

NHLチームでプロキャリアをスタートさせる24歳以下のルーキー選手」と書きましたが、その選手がELCを結んだとしても、NHLの傘下であるAHL(2部)に送られて育成されることも多々あります。

(もちろん、初っ端からNHLでプロキャリアをスタートする選手も結構います。)
(ELCを結んでECHLに送られる選手はあんまりいない。たまにいるけど。)

では、AHLでプロのキャリアを始めたルーキー選手全員がELCを結んでいるのか、というとそうでもありません。

特に、AHLでプレーし始める若手選手でも、フリーエージェント契約(自由契約)の選手はいなくはないです
AHL・ECHLのTwo-way契約を結んだ若手ルーキー選手とかはAHLにも結構いますね。

では、ELCを契約しながらAHLに送られて育成されるルーキー選手と、AHL・ECHLチームとフリーエージェント契約を結んでプロのキャリアを開始するルーキー選手の違いはなんなのか。

それは、NHLでプレーすることが期待できる選手かどうか、です。

▼もし、そのルーキー選手が、NHLでプレーすることが期待できると判断されるのであれば

NHLチームのGM
NHLチームのGM

君はNHLでプレーできそうなポテンシャルがある!!

俺らNHLチームが君とELCを結んで、AHLの傘下チームで育てるぜ!

お前は正式に俺らNHLチームの一員だからな!

25歳以下の<br>ルーキー選手
25歳以下の
ルーキー選手

やったぜ!!

という感じで、ELCを結ぶことで、NHLチームがその選手を囲い込むことに成功します。

▼反対に、その選手がNHLでプレーすることを期待できない場合

NHLチームのGM
NHLチームのGM

残念ながら君はNHLで活躍する可能性は低そうだなぁ。
大事なNHLのロスター枠を、君とのELCに使うことはできない。

もしAHL・ECHLでプレーしたいのであれば、自分で勝手にチームを探してフリーエージェント契約を結んでね。

もしそこで十分に活躍したら、もしかしたらELCあるかもだから頑張ってね。

25歳以下の<br>ルーキー選手
25歳以下の
ルーキー選手

はーい…。
AHL・ECHLで契約してくれるチームを探すかぁ。

という感じで、その選手はNHLチームに籍を置くことはできず、AHL・ECHLの下部チームと直接することになります。

NHLのロスターは、最大50人までしか登録できません。

なので、「とりあえずルーキー全員ELC結ぶかぁ」ということはできないのです。

(なお、18歳・19歳であればELCを結んでも即座にロスターの1枠を占めることにはならない特例があります。
この「スライド(Slide)」制度について下で解説しています)

▼こちらの記事で紹介しているYanni Gourde選手は、ドラフトされずにECHLチームとフリーエージェント契約を結んだ後にプロのキャリアをスタートさせましたが、素晴らしい結果を残して成長し続け、後にNHLチームとELCを結びました。

NHL初の日本人である福藤豊選手もELCを結んでいた

画像引用:Tami Chappell/REUTERS

2007年1月にNHLでプレーをした初めてであり唯一の日本人選手である福藤豊選手も、2005年8月にELCを結んでおり、その契約下でNHLでプレーしました。

ELCの契約期間

その年の9月15日時点での年齢によって契約年数が決まる

ELCは、24歳以下の若手選手が対象となる契約です。

25歳以上の選手はELCを結ぶことはできません。

また、契約年数は、契約を結んだ年の9月15日時点での年齢によって以下のように定められています。
(ELCを結ぶこと自体は年中いつでも可能です)

年齢契約期間
18歳〜21歳3年間
22歳・23歳2年間
24歳1年間
25歳以上対象外(通常の契約)

25歳以上の選手は、最初からフリーエージェント契約(Free Agent Contract)を結ぶことになります。

9月15日時点の年齢で統一しているのは、NHLドラフトの年齢判定基準と統一するためです。

NHLドラフトも、その年(シーズンではなく、暦上の年)の9月15日時点で18歳〜20歳の選手を対象に行われます。
(NHLドラフトは例年6月ですが、9月15日までに18歳になるような17歳の選手も対象となっています。同じイメージですね。)

例:磯谷建汰選手がNHLチームとELCを締結した場合

画像引用:Florida Panthers 公式X
2024年シーズン開始前に、NHL・Florida Panthersのトレーニングキャンプに参加した磯谷建汰選手(20)

今シーズン(24-25シーズン)でジュニアリーグでのキャリアを終え、次のステップに進む磯谷建汰選手が、NHLチームとELCを結ぶ場合を考えてみましょう。

磯谷建汰選手の誕生日は2004年8月28日です。

現時点(2025年4月時点)では、まだ20歳ですが、2025年9月15日時点では21歳です。

まぁ20歳にしろ21歳にしろ、どちらにせよ3年間のELCを結ぶことができます。

ELCの年俸・ボーナス構造

給与は低い:5,000〜5,000

ELCでは、契約ごとに基本年俸の上限が設定されています。

例えば、現在(2024-25シーズン)ELCを結ぶ際の年俸の上限は$975,000です。
なお、NHLの今シーズン(2024-25シーズン)の年俸の下限は$775,000です。

よってこのELCは、$775,000~$975,000の範囲で結ぶことになります。

この上限で契約を結ばなければならないと考えると、NHL全体で見たらかなり低い給与であり、ELCがいかにルーキー用の給与として設定されていることがわかります。

もんじ
もんじ

Sidney Crosbyや、Connnor McDavid、Connor Bedardのように、ルーキーシーズンからめちゃめちゃ活躍している選手でも、最初は低い給与でスタートするんです。

チームからしたら、コスパ良く活躍してくれるんだから超嬉しいことですよね😂

ん、待てよ…

$975,000って、日本円にすると1億4000万円!?

めちゃめちゃ高給やんけ!!!!!夢があるなぁ…。

しかし、パフォーマンスボーナス(成績に応じた追加報酬)も設定可能で、実績次第では総収入が大きく伸びることもあります。

基本はNHL/AHLのTwo-way契約

先述の通り、ルーキー選手は2部のAHLにて育成されることがほとんどです。

よってこのELCは、NHLだけでなく、AHLでプレーした時の給与も明示されているTwo-way(ツーウェイ)契約です。

AHLでの年俸の下限は$52,725です。
ELC選手がAHLでプレーした際の年俸の上限は、確定した情報を見つけられなかったのですが、おおよそ$82,500程度らしい。

つまりは$52,725〜$82,500の範囲で定められているようです。

ツーウェイ契約のため、NHLでプレーした日数・AHLでプレーした日数から、給与が計算されるようです。

もんじ
もんじ

$82,500…

1200万円!

NHLと比べるとガクッと落ちますが、それでもこれはルーキー用の契約ですし、十分すぎるほど良いお給与ですね…。

NHLとカナダジュニアリーグ(CHL)の提携:19歳以下のELC選手の育成

画像引用:Sportsnet

ELC選手でもAHLで育成されることが多々あると先述しましたが、18歳・19歳でカナダジュニアリーグ(CHL)でプレーする資格があるELC選手が「NHL定着はまだ難しい」と判断されて育成される場合、2部AHLではなくCHLに送られて、そこで育成されます。

これはNHLとCHL間の特別協定で決められていることで、18歳・19歳のカナダジュニアリーグ出身のELC選手は、AHLでプレーすることができず、20歳になって初めてAHLでプレーすることができます。

CHLを含む世界中のジュニアリーグでは「20歳以上の選手は3人までしかロスター登録できない」という制限があることが多く、そこまで20歳の選手を柔軟に入れ替えたりできないという背景があることが理由の1つであると推測されます。

アメリカ大学リーグNCAA選手がELC契約を結んだ場合、プロ選手とみなされ、NCAAのアマチュアリズムを守る規則に反してしまうため、NCAAに戻ってプレーすることはできなくなってしまいます。
(もちろん、ELCではなく普通のフリーエージェント契約でも同様です)

よって、NCAAの大学を卒業する前にNHL、もしくはAHLでプレーする選手は、NHLでプレーすることが強く期待される有望な選手が多いです。

ほとんどの選手は、しっかり4年間NCAAでプレーし、大学もしっかりと卒業してからプロ入りします。

ELCのスライド制度:契約開始の延期とは?

18歳または19歳でELCを結んだ選手が、そのシーズンにNHLの試合に10試合未満しか出場しなかった場合、契約開始は自動的に1年延期されます。

つまり、18歳・19歳の選手はELCを結んだとしても、NHLにて10試合以上出場しない限りロスター50枠のうちの1枠を占めることはありません。

この制度をスライド(Slide)と呼びます。

このスライドにより、チーム側はまだ育成段階にあるELC選手の契約の有効期間を後ろ倒しにすることで、カナダジュニアリーグ(CHL)の選手はCHLに送り返したり、NCAA卒・ヨーロッパプロリーグ卒の若手選手はAHLに送ったりして、若手をじっくり育てることができます。

まとめ:ELCは若手選手とチームにとっての大切な制度

エントリーレベル契約(ELC)は、若手選手にとってはプロキャリアの入り口であり、チームにとっては人材育成とコスト管理の鍵を握る制度です。

エントリーレベル契約(Entry Level Contract:ELC)まとめ
  • NHLでプレーする24歳以下の若手が必ず結ぶ契約
    • 基本的にNHLロスター50人枠のうちの貴重な1枠を占める
    • 契約後にAHLに送られて育成されることも
    • CHL(カナダジュニアリーグ)選手はAHLではなくCHLに送られる
  • 年齢で契約年数が決定
    • 18歳〜21歳:3年間
    • 22歳・23歳:2年間
    • 24歳:1年間
  • 年俸に上限があり、高給ではない
    • AHLでプレーするための給与も設定されたTwo-way契約
  • 試合出場数による契約スライド制度
    • 18歳・19歳でELCを結んだ選手は、NHLで10試合以上出場しない限り、契約が1年間延長され、NHLロスター50人枠のうちの1枠を占めない

NHLにおける他の契約形態や、給与事情についての記事も現在制作中です。

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